7Sep

ボクサー物語、ダメージ
しかし、この試合で、
ダメージもうけていた。
2R、右まぶたに熱いモノが
流れ落ちてくるのは感じていた。
右まぶたより少し上、
まゆげの下を9針縫う深い傷が、
バッテング
(試合中、相手との頭の衝突)
でできていたのだ。
文字どおり傷だらけの
勝利であった。
控え室に戻り、
すぐに縫合手術が
後楽園ホールの医務室で
麻酔なしで行なわれた。
体を縫われるという
行為は初めてであったが、
なんか自分の体じゃ無い
みたいに、なすがまま
機械的に縫われた。
(「β-エンドルフィン」が
分泌された状態であり
痛みは感じなかった)
縫合が終わると、
応援してくれた仲間達に
「食べたい物を食べに行こうぜ!」
と言われた。
とりあえず傷よりも、
試合前に我慢していた、
食事ができる喜びの
ほうが大きい。
二つ返事で食事に向う。
しかし食べに行くには行ったが、
あまりお腹には入らない。
それは減量で胃袋が
小さくなって食べられない、
というより、入らないのである。
ボクサーは試合後、酒は飲むな、
長湯もするな、と言われる。
脳内出血などがあった場合、
急に血流が良くなると、
死んでしまうからである。
食べたい気持ちとは裏腹に、
食べられない。
「まぁ明日から食べるぞ!」
と軽く思っていた。
自分の部屋に戻り、
疲れた体を癒すために、
ベッドに入った。
試合後のボクサーには
「朝、意識が戻らないのでは」
という恐怖がのしかかるため、
その夜、眠れない人は多い。
私も体は疲れていたが、
妙に意識が冴え、眠れない。
うつらうつらとしても、
すぐ目が覚める。
時計を見るとたった
数分しか過ぎていない。
次の朝、意識はあった。
結局、一晩で合計一時間も
眠っていない。
鏡を見ると、私の顔は
倍に腫れ、はたから見ると
化け物である。
でも心は軽かった。
傷の手当てのために通った
お医者さんも、ボクシングが
大好きだった。
「アナタの次の試合は
応援しに行くからな! 頑張れよ!」
と嬉しいプレゼントまでいただいた。
一週間もすると顔の腫れもひけ、
カットした傷も痒くなりだした。
回復に向かっている証拠である。
しかし傷の深さから、
参加資格はあったにも
かかわらず、その年の
新人王戦は見送ることになった。
(今回の試合を反省してさらに
強くなって来年、新人王戦に
参加しようと思っていた。)
だが、人生の神様は私の
思い通りには歩ませて
くれなかった。
まさか、その3ヶ月後、
引退する道を選ぶことに
なるとは夢にも思って
いなかった。
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やっててよかったと思う瞬間
この時、茨城県から、
大応援団で応援に
来ていただいた方達に
感謝します。
本当に力になりました。
試合の時の応援だけでなく、
日々の私生活で本当に
お世話になりました。
自分ひとりで達成できることなんて、
少ないと思います。
必ず裏方さんの力が影響して
物事は成り立っています。
だから感謝が必要になります。
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